|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
第123回学術集会(平成24年6月17日(日))
【ワークショップ2】
帝王切開時の筋腫核出術の是非と留意点
平松 祐司
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科産科・婦人科学教室
当科では,帝王切開(以下帝切)時にみられた筋腫は原則同時に核出している.その理由は,筋腫を残した場合,産後に@子宮収縮不良,A悪露の滞留,持続,B子宮内膜炎,C残した子宮筋腫の増大,D月経異常,E不妊症,F入院,手術回数の増加,G次回,妊娠時の流産,早産,子宮内胎児死亡の可能性,H次回妊娠時に長期入院の可能性など多くの合併症が増すためである. 従来,帝切時の筋腫核出は大出血が懸念されるため禁忌とされてきた.このため予備的に,5cm以上の筋層内筋腫58例で検討してみた.筋腫は1〜11個核出し,その大きさは5〜13cmであった.術中出血(羊水を含む)は198〜1,880mlであり1,880ml出血例は全前置胎盤合併例であった.筋腫核出に伴う出血は240±135ml(13〜1,370ml)で,1,000ml以上の出血は2例あり1例は頚部後壁の13cmの筋腫,もう1例は10cmの筋腫が2個ありその1つが頚部後壁筋腫であった.この2例も自己血600ml輸血で対応でき,保存血輸血例はなかった.このように,平均240gの出血量増加ですむため,現在では帝王切開時に同時核出の方針にしている. 帝切時に少ない出血量で短時間に筋腫核出するコツは,@子宮収縮剤を点滴しながら手術する,A強く筋腫を牽引する,B正しい剥離層で筋腫を核出することである.筋腫核を強く牽引しながら,同一線上を切開することで正しい剥離層が発見しやすくなる.正しい剥離層をバイポーラシザーズで全周に拡げ,全周切開できたら筋腫核を牽引しながらガーゼで筋層を圧排することにより容易に剥離を進めることができる.筋腫核底部は血管が豊富であるため,バイポーラシザーズで凝固止血しながら剥離する. 通常,3層縫合し,1層目は1-0合成吸収糸で死腔を残さないように結節縫合する.創が深く死腔が残る危険性のある場合は,まず死腔が残らないようにすべて糸をかけ,その後1本ずつ結紮していく.1層目の創両端の結紮糸はコッヘルで把持して最後まで残しておき,この糸を牽引しながら以後の縫合を行い,子宮壁をできるだけ触らないようにすることが術後癒着の軽減につながる.2層目は2-0合成吸収糸で連続縫合,最表層は3-0モノクリル糸で連続縫合する.助手は糸を運針方向に牽引把持することが重要で,創部をよく絞めようと運針方向に引いたあと逆方向に引くと糸で筋層を断裂し,止血しにくい出血を起こすことになる.縫合終了後,温生食で創部,腹腔内をよく洗浄し閉腹する.以上の注意点を守って縫合すれば,癒着防止材の貼付は不要である. 帝切時の筋腫核出も,いくつかのポイントを押さえて行えば少量の出血で実施でき,患者のQOL改善の点からも有益と考える.
関東連合産科婦人科学会誌, 49(2)
279-279, 2012
|