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第124回学術集会(平成24年10月28日(日))
【シンポジウム】
産科プロバイダーチーム養成トレーニングコースALSO〜その意義と効果〜
新井 隆成
金沢大学大学院医薬保健学総合研究科周生期医療専門医養成学講座
最近,救急医療のあらゆる分野において医療者個々の知識や技能だけでなく,チーム医療の質が強く問われるようになった.それにともない,アップデイトされた最新の蘇生ガイドラインにおいては,医療者のコミュニケーションスキルやコラボレーションスキルのあり方が強調されるようになった.質の高い蘇生チームを作るためには,想定される救急症例に関わる可能性のあるすべての医療プロバイダーが共通の知識と技能を学ぶことが必要であるが,そのことによって蘇生の専門家が集まっただけではチーム医療の質はかならずしも期待通りに上がらないという最新のエビデンスを踏まえて,救急医療シミュレーション教育の内容がチーム力強化へ向けて改訂されたわけである.
BLS,ACLS,NRP(NCPR),PALS,ATLS(JATEC)など様々な救急医療に関わるシミュレーション教育が開発され,全世界で普及活動が展開されている.産科救急においても例外ではなく,ALSO(Advance Life Support in Obstetrics)という産科救急の認定プログラムが米国で開発され,現在全世界に普及し,2009年までに50ヵ国以上でプロバイダーコースが開催され,10万人以上がALSOコースを完了した.日本では金沢大学が2008年に初めて導入して以来,2012年7月31日までに,16都道府県で63回のALSOプロバイダーコースが開催され,1343名がコースを修了した.ALSOコースの参加者は,産婦人科医,助産師,プライマリケア医,小児科医,初期研修医,救急医,救急やICUの看護師,救急救命士そして医学部生などであり,現在あるいは近未来の日本の周産期医療体制において,分娩や周産期救急に関わる志を持った医療人である.日本全国のすべての地域で最低限の産科医療体制を維持するには,産科医療に関わりたいという志を持った人たちをトレーニングする場を多く提供し,最低限必要な医療チーム体制をあらゆる医療圏に確保する必要がある.その“スタートラインツール”となるトレーニングコースがALSOである.
プロバイダーコースは二日間.重要レクチャーは妊娠初期の合併症,難産,妊娠の内科的合併症,妊娠後期の性器出血,分娩後大出血,早産,前期破水,妊婦の蘇生法,そしてマタニティケアにおける安全性の9つ.少人数グループによる重要ワークショップは肩甲難産,胎位・胎向異常,鉗子と吸引,分娩中の胎児監視,重要な症例の5つ.オプショナル・ワークショップ:会陰縫合,超音波検査,そして出産危機における両親への対処の3つ.プロバイダーコースを受講し試験に合格した場合は,参加者は5年間有効の認証を受けることができる.プロバイダーコースの教官になることを希望する場合,一日間のインストラクターコースを受講しなければならない.
金沢大学の周生期医療専門医養成支援プログラムは,2007年よりALSOコースを日本に導入するための研究を開始,千葉大学,山梨大学,東北大学,秋田大学,大阪市立大学他,全国の多くの産科医療施設,そして公益社団法人 地域医療振興協会と協力しALSOを使った産科の医学教育研究を続けてきた.2010年度厚労省科学研究費 地域医療基盤開発推進研究事業 医師国家試験の改善に関する研究においては,『わが国における「初期臨床研修前の産科技能トレーニングのあり方」に関する研究』と題して,ALSOコースが初期臨床研修の技能到達度に及ぼす影響について全国的に調査をおこない,ALSOコースが我が国においても十分効果を上げる可能性があることについて報告した.また,現状の地域医療において必要とされる医療人材を育成するために必要な医師国家試験で問うべき内容について提言をおこなった.今回はさらに,これまでのALSOコースで得られた結果を集計し,現状における産科医療チームの課題を教育面から分析し,報告する.
1.産科診療を「特殊」から「一般」へ意識改革
2.産科診療技能教育を充実
3.産科救急医療チームの強化
4.へき地における産科医療体制の再生
これらは,ALSO導入時に立てた目標である.
この目標達成のためにどのようにALSOを教え,産科医療の安定のために生かしていくか.今後さらに全国で研究を深めていくことが必要である.産科医療体制を強化するための教育重視の対策にはまだまだ可能性が潜在している.
受講者の内訳を見れば,その可能性を想像することは難しくない.
・産婦人科医,助産師を中心とした産科医療チーム体制の質強化
・産婦人科や小児科を診ることのできる救急医やプライマリケア医の増加
・産科プロバイダーとしての看護師や救命士の増加
・これらすべての産科プロバイダーが地域のニーズに応じて新たな医療チーム体制を構築
現状の専門医偏重の医療体制では,ウィメンズヘルスケアを維持していくために多くの人材資源を必要とする.これまでがそうであったように,特にへき地では多くのマンパワーを維持することはむずかしい.上記の体制を整えることによって,へき地のウィメンズヘルスケアは最小限のマンパワーによって良質に維持される可能性がある.
そのためにすべての産科プロバイダーが一堂に会して知識,技能訓練,そしてチーム医療強化のための最新のスキルを学ぶ,それがALSOプロバイダーコースである.
関東連合産科婦人科学会誌, 49(3)
387-388, 2012
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