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第125回学術集会(平成25年6月15日(土),16日(日))

【特別講演1】
妊娠時の膵β細胞反応とそのメカニズム


綿田 裕孝
順天堂大学大学院代謝内分泌学


 妊娠時,様々なホルモン分泌動態の変化の結果,母体にインスリン抵抗性が出現する.これは,栄養を母体から胎児に供給するための重要な変化だと考えられる.母体は,このインスリン抵抗性を代償するために,インスリン分泌細胞である膵β細胞の機能と細胞数を増加させるが,この代償機構の詳細なメカニズムは,明らかにされていなかった.  そこで,我々は,妊娠マウスの膵β細胞容積と,膵β細胞増殖状態を詳細に,経時的に観察した.その結果,妊娠12.5日に膵β細胞増殖活性が亢進し,その活性は出産に向けて低下することを見出した.そこで,非妊娠マウスと,妊娠12.5日目の母体の膵ラ氏島を用いて,両者間で発現変化を認める因子をMicroarrayで同定した.その結果,セロトニン合成律速段階の酵素,Tryptophan hydroxylase(Tph)1と2の両者の発現が妊娠時に大きく亢進することが明らかになった.事実,妊娠マウスの膵ラ氏島では,通常膵ラ氏島では認められないセロトニンの発現がはっきりと認められた.さらに,単離膵ラ氏島を用いた検討では,プロラクチン投与により,Tph1,2の遺伝子発現が増加し,また,セロトニン投与がCyclinA1,B1,B2,D1,D2などをはじめとして多数の細胞周期関連蛋白質の発現を増加させ,細胞増殖を促進させることが明らかになった.  セロトニンには多数の受容体があることが知られているが,申請者らは,妊娠期の膵β細胞増殖のタイミングにあわせて,発現が増加する受容体として5-HT2b受容体を同定した.そして,Tph阻害剤投与時と同様に,5-HT2b受容体遺伝子ノックアウトマウスでは,妊娠時の膵β細胞容積増加反応が消失することが判明した.したがって,妊娠期には,プロラクチン→プロラクチン受容体→Tph↑→セロトニン分泌↑→5-HT2b受容体→細胞増殖↑というシグナルが膵β細胞容積増加反応を司っていることが明らかになった.  これらの知識は,妊娠糖尿病のメカニズムの解明に有用であるし,また,2型糖尿病の致命的な欠陥のひとつはライフスタイルの悪化による病的なインスリン抵抗性に対して,膵β細胞増殖亢進が不十分であることが挙げられる.従って,妊娠に伴う膵β細胞容積増加機構を解明すれば,これを応用し,2型糖尿病の致命的変化である膵β細胞容積低下を防げる可能性がある.


関東連合産科婦人科学会誌, 50(2) 290-290, 2013


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