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第125回学術集会(平成25年6月15日(土),16日(日))

【特別講演2】
絆を支える神経修飾因子,オキシトシンと受容体


西森 克彦
東北大学農学研究科・分子生物学分野


 旧知のホルモン,オキシトシン(OXT)は視床下部で合成後,下垂体後葉に軸索輸送され,血中に放出されて強い子宮筋収斂作用と乳汁射出活性を示し,現在も分娩誘発・陣痛促進剤として臨床応用される.一方,最近の研究は,脳内に投射・放出されたOXTが,脳内の幅広い領域に発現するオキシトシン受容体(OXTR)に作用し,母性行動や社会的記憶などの社会行動制御,ストレス応答,体温代謝制御など,多様な生理・行動制御機能に関わる事を示しつつある.  我々はOxtと受容体の両遺伝子欠損(Oxt-/-Oxtr-/-)マウスをそれぞれ作製し,解析を行った.これらKOマウスは何れも他個体に対する個体識認能力(社会的記憶)低下や攻撃性増加,母性行動低下など,様々な“社会行動”の障害を示し(1,2),OXT・受容体系による社会行動制御能が注目されるに至った.一方,“発達障害”に分類される自閉症の患者の一部にOxtrの異常を示す例が報告され始め,Oxtr-/-マウス等で見出された社会性の低下は,モデル動物レベルでの自閉症的症状とみなされつつある.OXT・受容体による社会行動制御能に関して,ヘテロOxtr KOマウスでも,社会記憶の障害が見出され(3),Oxtrはhaploinsufficientな遺伝子であることが強く示唆された.これは,ヒトのOXT・受容体系の僅かな変化,遺伝子レベルでの変異障害が個々人の性格に影響を与え,自閉症等の精神疾患にまで至る可能性を示した点で興味深い.現在,高機能自閉症やカナー型自閉症患者へのOXT投与による臨床研究が始まり,治療効果を示す幾つかの報告は注目を集めている.  我々はOXT系の障害された病態モデル動物のOxtr-/-マウス,OXTR発現ニューロンの可視化と容易な検出が可能なOxtr-Venusマウス(4),さらに領域特異的なOxtr欠損を誘導できるOxtr(fx/fx)マウスとAAV-Creベクター,部位特異的なOxtrのレスキューの為のAAV-Oxtr-IRES-Venusなどを開発駆使し,絆と社会行動制御の重要な因子と考えられるOXTR依存性神経回路の詳細の解明を続けている.  1)Takayanagi, Y. et al.:Proc Natl Acad Sci USA 102:16096(2005)  2)Nishimori, K. et al.:Prog Brain Res 170:79(2008)  3)Sala, Mariaelvina et al., J. Neuroendo 25:107(2013)  4)Yoshida, M. et al.:J Neuroscience 29:2259(2009)


関東連合産科婦人科学会誌, 50(2) 291-291, 2013


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