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第125回学術集会(平成25年6月15日(土),16日(日))

【シンポジウム】
外科領域のERAS;大腸癌治療300例の経験


志田 大
国立がん研究センター中央病院大腸外科


【はじめに】「術後回復力強化プログラム」と意訳されるERAS(enhanced recovery after surgery)は,周術期管理の包括プログラムであり,複数のelementsで成り立つ“様々な工夫のパッケージ”である.ERASは外科医・麻酔科医・看護師のチーム医療として行われ,本邦においても近年,外科系各種学会や麻酔科学会の主題演題として採用されており,周術期管理のtopicsとなっている. 【背景】墨東病院大腸外科では,術後早期回復を図り,早期退院,ひいては,スムーズな社会復帰・それによる患者満足度の向上を目標として,2010年7月に墨東大腸ERASを導入した.墨東大腸ERASの主軸を,1.術前・術後の絶飲食期間の短縮,2.PCA併用硬膜外麻酔による術後鎮痛,3.早期離床,4.チーム医療,の4点とした.導入に先駆け,麻酔科や病棟看護師と勉強会を頻回に重ねてプロトコールの内容と意義に関する相互理解を深め,また栄養科の協力を得て経口補水療法としてOS-1を病院採用した.絶飲食期間の短縮に関しては,リスクを評価した上で,術前は手術当日朝まで飲水可とし,術後は手術翌日から飲水,3日目から食事を開始するようにした.また,看護師の全面的な協力で,早期離床を徹底した. 今回,ERAS導入後,目標とする早期退院・スムーズな社会復帰が可能になったかどうか,術後在院日数を評価項目として検討する. 【対象】大腸癌手術症例(穿孔例・直腸切断術を除く)で,ERAS導入後の2010年7月から2012年11月までの連続する294例をERAS群,ERAS導入以前の連続する96例をコントロール群として比較した. 【結果】術後在院日数は,コントロール群では12.7±7.7(7-49)日,中央値10日であったのに対し,ERAS群では8.4±5.9(5-66)日,中央値7日であった.ERAS群で,平均値で4.0日,中央値で3日短縮した.また,術後7日以内に退院した割合は,コントロール群1%に対し,ERAS群74%と著明に増加した.術後1カ月以内の再入院率は,それぞれ8%,6%と差はなかった. 【結論】本邦の大腸癌治療は,リンパ節郭清の程度や,保険制度(本邦は国民皆保険であり,金銭面の観点からは必ずしも早期退院を希望しない患者が多い)といった点で大きく海外と異なる.そういった背景の違いから,ERASをそのまま本邦に外挿することは問題があるが,本邦においてもERASは大腸癌手術後の早期回復をもたらし,早期退院・社会復帰を可能にした.


関東連合産科婦人科学会誌, 50(2) 301-301, 2013


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