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第126回学術集会(平成25年10月26日(土),27日(日))
【教育セミナー1】
早産の予防
金山 尚裕
浜松医科大学産婦人科
正常分娩の発来機序と早産機序は誘因こそことなるが,子宮収縮機序,頸管軟化機序については同じメディエーターが関与している.正常分娩の誘因は胎盤ホルモンの変化によるプロゲステロン活性の消退,羊水成分の変化,卵膜機能の変化,胎児の伸展刺激などである.一方早産の原因は絨毛膜羊膜炎,歯周病,絨毛膜下血腫,卵膜への胎便曝露,各種ストレス,プロゲステロン活性の低下などがある.早産の誘因を減少させることが早産の予防対策に重要である.以下にそれぞれの誘因とその対策について述べる.
1)細菌性腟症・腟炎:絨毛膜羊膜炎は腟,頸管からの上行性感染であること多い.細菌性腟症・腟炎例では洗浄,局所の抗生物質療法を行う.温水式便座による過度の洗浄も細菌性腔症・腔炎を惹起するとの報告もある.腟炎を起こしやすい生活習慣があれば指導することも大切である.2)頸管炎:頸管炎は絨毛膜羊膜炎の1期とほぼ同様な病態と考えられ,頸管炎は絨毛膜羊膜炎に移行しやすい病態とみなせる.頸管炎の診断は頸管粘液中顆粒球エラスターゼで行う.頸管炎を合併しやすい病態としては腟炎,頸管ポリープ,広範囲腟部びらん,クラミジア感染などがあり,原因疾患に対して個別に対応するが,顆粒球エラスターゼ陽性例ではウリナスタチン腟錠を用いる.精漿中には炎症惹起物質が比較的多量に含まれている.精漿は子宮の頸管に作用し頸管細胞から炎症性サイトカインを産生する作用を持つ.腟炎合併している妊婦においてはコンドームの使用を勧めるべきである.3)歯周病:歯周病が早産の原因となるとの報告が増加している.妊婦の齲歯は積極的に治療しておくことが早産予防に繋がる可能性がある.4)絨毛膜下血腫:絨毛膜下血腫は早産の誘因として注目されている.絨毛膜下に出血するとトロンビンが産生される.トロンビンは炎症性サイトカインを誘導し炎症を惹起する.血管外に出た出血は炎症物質であるという認識は重要である.絨毛膜下血腫を認めた症例には血液除去のための洗浄,ウリナスタチン腟坐薬投与を行う.またトラネキサム酸の有効性が示唆される報告もある.5)卵膜への胎便曝露:妊娠中〜後期への卵膜への胎便曝露は卵膜の脆弱化につながり前期破水の原因となる.分娩前の胎児機能不全は前期破水のリスクが高いと認識する.6)各種ストレス:ストレスが早産のリスクファクターであることは多くの報告で明らかになっている.最近,斉藤らはパートタイマーの早産率が高いことを報告しているがこれもストレスに早産が関与することを示すものであろう.ストレスを軽減することは早産予防として重要である.7)プロゲステロン活性の維持:妊娠維持機構にプロゲステロンが必須であることからプロゲステロンの早産予防効果は容易に予想される.まだプロゲステロン活性低下の診断法は確立していない.プロゲステロン療法は早産予防対策の観点から現在注目されている.
関東連合産科婦人科学会誌, 50(3)
422-422, 2013
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