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第126回学術集会(平成25年10月26日(土),27日(日))
【教育セミナー2】
産科診療ガイドライン2014年のポイントから
〜産褥期の取り扱い:主に産後出血と
静脈血栓塞栓症について〜
村越 毅
聖隷浜松病院総合周産期母子医療センター
2008年に発刊された「産婦人科診療ガイドライン産科編2008」は3年ごとの改訂が約束されている.2011年版では2008年版のCQ&Aの改訂に加えて新たにCQ&Aが24項目追加された.また,来春に発刊予定の2014年版ではCQ&Aと解説番号を一致させ,CQ&Aの項目を増やすことと同時に解説のボリュームを減量しより読みやすいように工夫されている.これらのガイドラインの発刊と改訂により本邦の産科診療の標準的治療がある程度示され,日々の臨床に役立っている.加えて,産科学のどの分野にエビデンスが少ないのかなどが明らかになり産科周産期分野における臨床研究に役立っている.実際,2014年版では本邦からの新しいエビデンスも参考文献として複数引用されている.
一方,2010年から産婦人科医会と産科婦人科学会および厚生労働科学研究で行われている妊産婦死亡症例評価委員会では,年間50例程度の妊産婦死亡を個別評価し,得られた結果から「母体安全の提言」を毎年発刊しており,妊産婦死亡を減少させる努力が行われている.妊産婦死亡の約30%は産後の出血によるものであり,本邦での分娩10万あたり1〜1.5人と推測される.産科危機的出血における輸血(特にFFP)や診断の遅れはその後の母体救命治療に直結する.産科危機的出血に関しての対応は2011年版のガイドラインでも「CQ316 分娩時大出血への対応は?」で取り上げられているが,大出血へ至る前の産褥期(分娩第3期)の取り扱いについては言及されていない.2014年版のガイドラインでは新しくCQ311-1として「産後の過多出血(PPH),その原因と対応は?」がもうけられた.これによりPPHは妊産婦死亡の原因として認識し,分娩第3期の注意深い観察によりPPHの早期発見を行い,産後の出血が一定量以上を超えた場合はPPHとして初期治療を行いながら,系統的原因検索(弛緩出血,産道損傷,組織遺残,子宮内反症,子宮破裂,血液凝固異常など)を行うことが推奨されている.また,産科危機的出血(出血性ショックなど)の場合にはCQ311-2として2008年版CQ316の改訂が掲載されている.
また,産褥期の周産期血栓予防におけるガイドラインも2011年版から大幅に改訂され,妊娠中の静脈血栓塞栓症の予防(CQ004-1)と分娩後の静脈血栓症の予防(CQ004-2)にわけて記載された.2008年版との大きな違いは静脈血栓塞栓症のリスク因子を第1群から第3群までに分類し,より具体的に管理を示したことにある.リスクの高い第1群では分娩後に分娩後抗凝固療法を推奨し,第2群もしくは第3群では分娩後抗凝固療法もしくは間欠的空気圧迫法を推奨している.
ガイドライン全体の中では産褥期の記述は少ないが,日常の産科診療の中では妊産婦死亡と直結するリスクを伴っており極めて重要な内容であると考えられる.本講演では産褥期の取り扱いについて2014年版のガイドラインの草案をもとに解説する.
関東連合産科婦人科学会誌, 50(3)
423-423, 2013
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