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第126回学術集会(平成25年10月26日(土),27日(日))
【ワークショップ1】
胎生期低栄養環境における児成長後のメタボリックシンドローム発症のメカニズムの検討
幸村 友季子
浜松医科大学産婦人科
【目的】
我が国ではやせ願望によりBMI18.5未満の若年女性が増加している.このような女性が妊娠した場合,胎児が比較的低栄養環境に曝されている可能性が危惧される.
近年,欧州の疫学研究から低出生体重児が授乳期に急速な発育をした場合,成長後のメタボリックシンドロームのリスク因子であることが報告されている.
一方,肥満において慢性炎症に関連する脂肪組織のリモデリングが注目されている.炎症性M1マクロファージ(Mφ)が浸潤し,大型のみならず小型の脂肪細胞が増加し脂肪細胞が増殖型へリモデリングすることが,アディポカインの産生を介して糖代謝や脂質代謝に悪影響をおよぼし,メタボリックシンドロームの発症に重要な役割を果たす可能性が明らかになりつつある.本研究では妊婦の栄養摂取調査を行い,さらに胎生期低栄養マウスモデルにて離乳期の急速な発育が成長後の脂肪組織リモデリングのリスク因子であるという仮説の検証を行った.
【方法】
@単胎妊婦135人に妊娠初期,中期,後期の各3日間(計9日間)の食事の食前と食後をデジタルカメラで撮影し,栄養解析ソフトで摂取カロリーを算定した.
Aマウスモデル解析;1)C57BL/6妊娠マウスを自由摂餌群(AD群;ad libitum)と70%摂餌制限群(CR群;caloric restriction)に分け,生まれたオスに9週齢から高脂肪餌を与えた.2)17週齢に皮下脂肪を採取し血糖値,総コレステロール値を測定した.3)皮下脂肪組織にてMφ特異的F4/80染色での平均陽性細胞数を測定した.M1/M2 Mφ表面抗原比(CD11c/CD163),MCP-1,TNF-α遺伝子発現を定量PCR法にて測定した.脂肪細胞の直径をScion imageにて測定した.4)授乳期の発育指標として離乳時体重のZスコア;(体重−平均体重)/SD値を算出し各々のパラメータとAD群,CR群との相関を検討した.
【成績】
@妊娠各期で平均摂取カロリーは約1600kcal/日であり,厚生労働省の推奨値を大きく下回った.
Aマウス動物実験では,CR群では,17週齢体重と皮下脂肪重量,血糖値,総コレステロール値は離乳時体重のZスコアと有意な正の相関を認めた.また脂肪組織においてM1Mφの浸潤が有意に高く,30μm未満の小型脂肪細胞の割合は離乳時体重のZスコアと正の相関を認めた(r=0.41,p<0.05).MCP-1とTNF-αは皮下脂肪重量と正の相関を認めた.AD群では相関を認めなかった.
【結論】妊婦の栄養摂取不足が明らかになった.マウスの胎生期低栄養モデルでは,授乳期の良好な発育は,脂肪細胞の炎症性リモデリングが増悪し,肥満の増悪,糖代謝異常,脂質代謝異常に関与する可能性が示された.
関東連合産科婦人科学会誌, 50(3)
431-431, 2013
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