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第126回学術集会(平成25年10月26日(土),27日(日))
【ワークショップ2】
基礎から臨床への応用
―内分泌・免疫・神経系ネットワークによる胚着床誘導機構―
藤原 浩
金沢大学医薬保健研究域医学系分子移植学産婦人科教室
哺乳類は非自己である胚(胎児)を子宮内に寄生させることに成功した.ではいったい胚はどのような機序を利用して母体に着床することができたのであろうか?本来子宮は胚以外の侵入者は排除するように機能するはずである.従って胚着床の誘導には母体は最初の段階から着床すべき胚とそれ以外の侵入者を正確に識別すること,すなわち「母体による胚の認識」が必須と考えられる.
着床後の胚は子宮内で発育するために子宮内に胎盤を形成する.ヒト胚は子宮内膜に接着した後に活性化し,基底膜を破壊して子宮内膜間質内へと一塊となって埋没する.排卵後12日目になると栄養膜細胞層内にlacunar spaceが形成されて母体循環系との交通が可能となり,栄養膜細胞から大量に産生される絨毛性ゴナドトロピンHCGが母体血流を介して黄体に至りプロゲステロン産生を刺激して胚の着床を維持する.すなわち血流を介した内分泌機構により胚-母体間の相互応答が着床早期より開始される.
このようにヒト胚着床は主として内分泌系の制御を受けているが,その他にも胚からの因子が重要であることが指摘されており,胚-母体間の対話機構に注目が集まっている.またそれらに加えて近年免疫系の関与も報告されるようになった.一般にこれまで免疫系の役割に関しては,胎児を拒絶することなく子宮内寄生を寛容する機序に注目が集められてきたが,近年免疫細胞がより積極的に妊娠の成立・維持に貢献している可能性が示されつつある.その一方で子宮の血流や収縮の制御には自律神経の関与も重要と考えられる.
これらの背景のもとで我々は免疫系の細胞,特に末梢血免疫細胞がヒト妊娠黄体の分化と機能維持にむしろ積極的に関与していることを見いだし,その後の検討で胚着床現象においても免疫系細胞は胚の存在を認識して機能を変え,子宮内膜の分化や胚の浸潤に対して促進的な役割を果たしていることを明らかにしてきた.さらに上記の考えに基づいて着床不全症例に対する自己のリンパ球を用いた新しい治療法を開発して有意な成果を挙げてきてきた.
以上のように胚の着床過程は従来からいわれている内分泌系のみならず免疫系の制御も受けていると考えられる.すなわち複数のシステムのネットワークによる制御のもとで胚の子宮内寄生の成立がおこなわれていると推定される.今後はこのようなネットワーク機構の解明が,新しい治療法の開発に繋がるものと期待される.
関東連合産科婦人科学会誌, 50(3)
434-434, 2013
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