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第126回学術集会(平成25年10月26日(土),27日(日))

【ワークショップ2】
臨床の立場から


菅沼 信彦
京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻


近年,体外受精・胚移植をはじめとする生殖補助技術(ART)の発展により,多くの不妊カップルに福音をもたらしている.わが国においても,年間約3万人の体外受精児が誕生し(日本産科婦人科学会,2010年),恒常的な少産少子化が続く中,出生児の40人に1人以上が体外受精児となっている. しかしながら,体外受精による妊娠成功率は30%以下であり,生児獲得率も20%前後に止まっている.またARTを用いても妊娠に至らない絶対不妊の存在も忘れてはならない.これに対し,ARTのオプションとして,卵子提供や代理懐胎など,第三者が関与する生殖医療の台頭も法的・倫理的問題を含有しながら臨床現場に適用されているのが現実である.本講演では「ベッドサイド・ベンチサイド」の立場から,「今,不妊治療の現場で何が起こっているのか」を紹介する. [卵子提供・配偶子造成] ARTを規制する法律が存在しないわが国においては,卵子提供に関する方針は学会の会告レベルに止まっている.そのため個人あるいは団体・法人により,自主的な判断の下に一部は実施されているが,その絶対数は少なく,多くが海外における医療サービスに委ねられている.しかしながら,法的ならびに倫理社会的な問題も大きい.これに対し,最新のES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞研究の進展は,将来的には配偶子造成への可能性を示してきている. [代理母・子宮移植] 子宮性不妊患者における代理懐胎・代理出産は,妊娠さらには分娩という過程をも代理母に負担を強いることになり,卵子提供以上に倫理的問題点が多い.また日本においては法的にも出産した女性が母であり,代理出産を依頼した夫婦の実子とはなり得ない(最高裁判例).これに対し近年,移植医療としての子宮移植が世界の多くの国で臨床研究に至っている. [経済的支援] 不妊治療を医療の中にどのように位置づけるかは,大きな論議を呼ぶ命題である.高齢化社会が進み,結果的に多くの医療費が老人医療に費やさざるを得ないことは年金問題と同様である.わが国の国民皆保険制度の中で,不妊症が生命維持を脅かす疾患ではないことから,ARTは保険対象とならず,一部の公的補助のみに止まっていることは問題であろう. [不妊予防] 社会の変化に伴い,晩婚化や出産年齢の上昇が不妊症例を増加させている可能性は高く,生物学的生殖適齢期の啓蒙は不妊予防として価値あるものと推測される.しかしながらそれは個人の思想や生き方を規制するものではなく,少子化対策のような政治的意図を持つものではない.医療者は患者のみならず社会に対し,正しい情報提供を心がけることを忘れてはならない.


関東連合産科婦人科学会誌, 50(3) 436-436, 2013


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