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【症例報告】
腹痛発症後,極めて短期間でエンドトキシンショック,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症した卵管留膿症の一例


西村 良平, 加藤 清, 渡邉 貴之, 武田 哲, 本道 隆明, 木村 薫
JA長野厚生連篠ノ井総合病院産婦人科


 われわれは基礎疾患を有さない成人女性において,下腹部痛出現から24時間という極めて短期間に敗血症,さらには急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)に至った卵管留膿症の一例を経験した.症例は36歳,未経妊のタイ人で下腹部痛,嘔吐を主訴に当院を受診.CTにて子宮右側に腫瘤を認め,卵管留膿症,骨盤腹膜炎と診断し,抗生剤の投与を開始した.翌日に腹痛の増悪,血圧低下を認め,敗血症,播種性血管内凝固症候群(DIC)の状態に至ったため同日緊急手術を施行したところ,腹腔内全体に膿汁および膿苔が存在し,腫大した右卵管から膿汁の排出を認めたため右付属機切除術を施行した.術後にエンドトキシン吸着療法,昇圧剤ならびに抗生剤,γグロブリンを投与したが術後4日目にARDSを発症し,人工呼吸器管理を要した.その後容体は改善し術後8日目に抜管,術後20日目に退院した.術前の血液培養,ならびに術中腹水培養からは嫌気性グラム陰性桿菌認め,また術中腹水のグラム染色では白血球による同菌の貪食像が確認されたが,菌種の同定はできなかった.卵管瘤膿症の多くは保存的治療で軽快するが,本症例のように急速に増悪する場合もあり,汎発性腹膜炎を疑う所見がある場合や,白血球減少をともなう場合には迅速に外科的処置を行うことが必要と思われる.

Key words:pyosalpinx, endotoxin shock, fulminant course, acute respiratory distress syndrome

関東連合産科婦人科学会誌, 50(4) 643-648, 2013


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