|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
【症例報告】
腟トリコモナスによる腟壁膿瘍と考えられた一例
叶谷 愛弓, 小島 聡子, 根井 朝美, 磯野 渉, 星野 寛美, 袖本 武男, 香川 秀之
関東労災病院産婦人科
経腟分娩困難となり緊急帝王切開術を要した腟トリコモナスが原因と考えられた腟壁膿瘍の一例を経験したので報告する.症例は29歳,0回経妊0回経産で妊娠分娩管理のために当科初診.妊娠33週に妊娠前から認めていた腟の激痛のため救急車で来院し入院となった.妊娠前から腟痛に関しての原因検索を行っていたがはっきりせず,入院後も原因は不明であった.仙骨ブロックなどで,疼痛コントロールを行っていたが痛みにより分娩停止となり,緊急帝王切開を施行した.腰椎麻酔下に内診したところ腟前壁に緊満した腫瘤性病変を認めた.穿刺内容液は膿汁様であり,腟壁膿瘍と診断し腟痛の原因と考えられたため帝王切開後に腟壁膿瘍開窓術を施行した.膿瘍内容の塗沫検査ではWBC(3+)であり,細菌培養検査では細菌は検出されなかった.術直後には痛みは軽減したが,術後1か月で痛みが再燃.その際に施行した子宮頸部細胞診および尿沈査でトリコモナス原虫が検出された.メトロニダゾール内服により症状は軽快し,10か月経過時点で腟痛の再発はみられない.腟トリコモナスによる腟壁膿瘍の報告はないため今回の症例は非常に珍しいといえる.我が国では腟トリコモナス症は減少傾向にあるが,HIVとの関係が示唆されており今後HIVの増加と共に腟トリコモナス症も増える可能性がある.原因不明の腟痛を診た際には腟トリコモナス症も念頭に置く必要がある.
Key words:Trichomonas vaginalis, vaginal abscess, vaginal pain
関東連合産科婦人科学会誌, 51(1)
63-67, 2014
|