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第127回学術集会(平成26年6月21日(土),22日(日))
【ワークショップ2】
データベースからみた常位胎盤早期剥離
林 昌子
日本医科大学多摩永山病院
常位胎盤早期剥離は全妊婦の0.49−1.29%に発症し,周産期死亡,母体死亡の原因となる重大な疾患である.重症例は約0.1%とされ,日本医療機能評価機構産科医療補償制度原因分析委員会の報告では,脳性麻痺発生原因の約25%を占める.日本産科婦人科学会周産期委員会では周産期登録事業を行っており,2001年以降,全国の2次,3次周産期施設を中心に,登録参加施設での妊娠22週以降の全分娩が登録されている.2001年から2010年の10年間,全国116〜139施設から約64万例が登録されており,本邦最大の周産期データベースである.そこで,今回はこのデータベースより常位胎盤早期剥離の症例を抽出し,その背景や周産期予後について検討した. 周産期登録データベースの登録症例の中で,常位胎盤早期剥離の症例は約1%であった.一般に報告されている通り,高齢妊娠で発症のリスクが高く,初産より経産婦に多かった.常位胎盤早期剥離は登録に含まれる22週以降41週まで全ての妊娠週数で発症していたが,発症のピークは36週で,34週から38週の発症が1/2を占めていた.母体搬送によらない院内発症例は約40%で,院内症例のうち正期産に限った検討では,NICU入院が約20%,児死亡は約5%であった.一方,約60%を占める母体搬送症例では,正期産でもNICU入院が30%,児死亡が20%と高率で,院内発症と搬送症例で大きな格差がみられた.院内発症例と搬送症例で母体死亡に差は無かったが,分娩時出血量,DICの発症率は搬送症例に多かった.2001年から2010年の10年間で発症頻度に変化はみられなかったが,母体搬送は約60%から55%へ,DIC発症率は10%前後から8%へ,児死亡率は約20%から13%へと低下傾向がみられている. 常位胎盤早期剥離のリスク因子は一般に前回早剥の既往,血栓傾向,切迫早産,前期破水,妊娠高血圧症候群,慢性高血圧等とされるが,発症の予測は困難であり,一次周産期施設で発症して母体搬送されるケースが多い傾向であった.この10年間で周産期予後は改善傾向にあるが,さらに改善の余地はあると考えられる.これまでの報告では発症から児娩出までの時間が予後を左右するとも言われており,搬送システムのさらなる高速化など搬送で重症化を防ぐ対策を検討するとともに,一次施設へのドクター搬送,輸血輸送システムの更なる改善など,一次施設での対応力の強化も必要であろう. 本ワークショップでは日本産科婦人科学会周産期登録データベースを用い,上記の解説を行い,周産期予後に関連する因子につき若干の考察を加えて報告する.
関東連合産科婦人科学会誌, 51(2)
214-214, 2014
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