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第127回学術集会(平成26年6月21日(土),22日(日))
【ワークショップ2】
脳性麻痺に対する常位胎盤早期剥離のインパクト 〜産科医療補償制度原因分析事例からの解析〜
石川 浩史
神奈川県立こども医療センター産婦人科
産科医療補償制度は,分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児とその家族の経済的負担をすみやかに補償するとともに,脳性麻痺発症の原因分析を行い,同じような事例の再発防止に資する情報を提供することなどにより,紛争の防止・早期解決および産科医療の質の向上を図ることを目的として,2009年1月から運営が開始されている.補償対象と認定された全事例(2013年3月現在で461件)について,当該分娩機関から提出された診療録等に記載されている情報および家族からの情報等に基づいて,医学的な観点から原因分析が行われている.原因分析報告書は児の家族と分娩機関に送付するとともに,運営している日本医療機能評価機構のホームページで要約版が公開され,請求すれば詳細版の入手も可能である.さらに2014年1月からは一部症例の胎児心拍数モニターもホームページで公開されている. 2013年5月に刊行された「第3回産科医療補償制度再発防止に関する報告書」によれば,2012年12月末までに原因分析報告書が作成され公表された188件のうち「脳性麻痺の主たる原因」が明らかであったものは106件であったが,常位胎盤早期剥離は原因別では最も多い48件を占めていた.また複数の原因のひとつとして常位胎盤早期剥離が関与したとされているものも含めると59件(31.4%)で発症していることから,常位胎盤早期剥離は「分娩に関連して発症した重度脳性麻痺」の最大の原因ないし関連要因であることが明らかになった. 発症した妊娠週数は妊娠37〜39週が31件と約半数であった.妊娠高血圧症候群などの危険因子をもたない事例が33件と半数を超えていた. 初発症状としては,代表的な症状である「腹痛またはお腹の張り」が38件で「性器出血」が13件で認められた一方で,「胎動消失または減少」7件,「腰痛」3件,「頭痛,便意など」6例(いずれも重複あり)といった非特異的な症状も認められ,切迫早産と鑑別困難な事例も少なからず認められた.また発症時の胎児心拍モニターも,基線細変動が中等度に保たれた遅発一過性徐脈,基線細変動が減少・消失した遅発一過性徐脈,サイナソイダルパターン,基線細変動が三角状および鋭角に増加したパターン(いわゆるチェックマークパターン)など多彩であった. 脳性麻痺における常位胎盤早期剥離のインパクトは甚大である.非特異的な症状および胎児心拍モニター異常から早期に診断して急速遂娩を行うことが,脳性麻痺発症予防に重要であると考えられる.
関東連合産科婦人科学会誌, 51(2)
216-216, 2014
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