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第128回学術集会(平成26年10月25日(土),26日(日))
【ワークショップ2―私たちはこうしている―】
前置癒着胎盤における総腸骨動脈balloon occlusionを併用した周術期出血量低減の工夫
村山 敬彦
埼玉医科大学総合周産期母子医療センター母体胎児部門
前置胎盤では,子宮下部の筋層が疎であるために,胎盤剥離面の迅速な生物学的結紮止血が期待できず,周術期出血量が多くなってしまう.しかし,多くの症例では,胎盤剥離面への結紮止血やtamponadeにより子宮摘出は回避できる.前置胎盤に癒着胎盤が合併すると,絨毛と子宮筋層が脱落膜を介さずに接するため,子宮とその周囲に新生血管が増生し,胎盤剥離を試みると,コントロール困難な出血をきたすことになる.このため,前置癒着胎盤症例では,cesarean hysterectomy(CH)が必要になることが多く,その周術期出血量はときに致死的である.
当センターでは2005年まで,内腸骨動脈結紮術を併用することで周術期出血量の低減を図っていたが,有効な症例を認めるものの,全体としては出血量低減に寄与しなかった.症例を検討したところ,内腸骨動脈血流を遮断しても,瞬時に外腸骨動脈や大動脈から分枝する血管から内腸骨動脈末梢に側副血行が生ずることを確認した.
2006年以降の約50症例に,総腸骨動脈balloon occlusion(CIABO)を併用してCHに臨むこととしたところ,全体として有意に周術期出血量が減少し,大量出血症例の頻度も減少した.また,病理学的裏付けはできていないものの,症例によってはhysterectomyを回避することが可能であった.しかし,症例を重ねると,周術期の出血量低減という観点からは,一期的なhysterectomyを回避して,子宮血流の減弱を待ってから再手術を考えたほうが良かったのではないかと考えられる症例にも遭遇した.特に,壁側腹膜の血管が広範に怒張している症例では,CIABOを併用しても,総腸骨動脈より中枢からの側副血行が多く認められ,その効果を実感できなかった.また,Douglas窩や膀胱子宮窩の癒着が強固な症例も,子宮血流が減弱してからhysterectomyを実施した方が,臓器損傷や大量出血を回避するという観点で良いのかもしれない.では,より中枢側で血流を遮断すれば良いのではないかという考えが浮かぶのだが,腹膜への側副血行は肋間動脈との吻合によるので,胸部大動脈での血流遮断が必要となり,腎臓をはじめとした臓器虚血のリスクから現実的とは言い難い.効果が十分期待でき,かつ,できる限り末梢で血流を遮断することが重要で,CIABOを併用したCHが最も実践的であると考えている.
前置胎盤や前置癒着胎盤の手術では,様々の止血手技を広く習得し,術野の状態を迅速に評価し,臨機応変に止血手技を応用することが肝要で,一つの方法に固執しない方が良いとも考えている.前置癒着胎盤におけるCIABOを併用した周術期出血量低減の実際を供覧し,その限界についても考察する.
関東連合産科婦人科学会誌, 51(3)
371-371, 2014
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