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【特集】
抗凝固療法を行っていたにもかかわらず脳梗塞を合併した抗リン脂質抗体陽性妊婦の一例


中西 一歩, 大内 望, 阿部 崇, 中尾 仁彦, 市川 智子, 峯 克也, 澤 倫太郎, 磯崎 太一, 明楽 重夫, 竹下 俊行
日本医科大学付属病院女性診療科・産科


 妊娠中に脳梗塞が合併することはまれである.しかし一度発症すると重大な後遺症を残す可能性もあり,迅速な診断と治療が求められる.世界的に見ても妊婦の脳梗塞に関しては明確なガイドラインが策定されていないため,治療には苦慮することが考えられる.今回我々は,抗リン脂質抗体陽性妊婦に対し抗凝固療法を行っていたにも関わらず脳梗塞を発症した一例を経験したので報告する. [症例]40歳 2経妊0経産.反復流産,抗リン脂質抗体陽性にてアスピリン・へパリン療法施行中であった.妊娠39週4日電話中に意識が遠のき,下肢脱力感及び失語等の症状出現したため当科外来受診.来院時は意識清明で眼振以外は明らかな神経症状は認めなかった.Biophysical profile score(BPS)は10点であった.来院時,頭部MRIでは明らかな梗塞巣なくTIAとして予防的にヘパリン1万単位/日開始した.症状の安定を確認の後,計画分娩とした.第5病日再度MRI撮影したところ左MCA末梢領域に微小な多発梗塞巣を認めたため,脳梗塞の診断となったが症状に著変ないため方針に特に変更は加えなかった.その後自然破水し陣痛発来.鉗子牽引にて分娩に至る.産後はワルファリン併用し,PTINRが安定化したところでヘパリン終了し退院とした.現在母児共に経過良好であり,神経症状の再燃は認めていない.妊娠は脳梗塞の危険因子でありリスクは非妊時の13倍にもなる.また抗リン脂質抗体陽性者はリスクが陰性者の2.31〜4倍との報告もあるため,抗リン脂質抗体陽性妊婦は特に慎重な観察が必要である.

Key words:ischemic stroke, pregnant, anti-phospholipid antibody, anti coagulant therapy

日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 48(1) 69-73, 2011


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